エベレスト登山の難所として知られる北稜ルート直下、標高8,000mを超えた斜面の窪地にエベレストの「虹の谷(レインボーバレー)」は広がっています。この名称を聞いた多くの人が高山植物のお花畑や光の屈折現象を想像しますが、実情は全く異なります。
この谷に彩りを与えているのは、遭難死した登山者たちが身にまとっている赤・青・黄・緑・オレンジといった色鮮やかな高機能ダウンジャケットやクライミングギアです。極冷・乾燥環境であるエベレストの山頂付近ではバクテリアが繁殖できず、遺体は腐敗することなく当時の鮮烈な色彩を保ったままフリーズドライ状態で保存されます。遠目から見ると谷底がまるで虹のように色とりどりに見えることから、登山者たちの間で皮肉と畏怖を込めて「レインボーバレー」と呼ばれるようになりました。
エベレストの標高8000m限界は「デスゾーン(死の領域)」と定義され、人間が生命を維持できる時間を超えて滞在することはできません。登頂を果たした達成感の直後、あるいは悪天候による疲労困憊の中で息絶えた登山者たちの遺体が滑落し、このすり鉢状の谷へ集積していった結果、この戦慄の光景が形成されたのです。