多くの消費者が抱いた最大の疑問は、「なぜ冷蔵・衛生設備が整っているはずの近代的な食品工場で、これほど爆発的な汚染が生じたのか」という点でした。八戸市保健所の病原検索および検食の精密検査によって、その直接的な原因菌が特定されました。検出されたのは黄色ブドウ球菌およびセレウス菌です。
黄色ブドウ球菌は、人間の皮膚や手指の傷口、鼻腔などに常在する菌ですが、食品中で増殖する際に「エンテロトキシン」と呼ばれる耐熱性の毒素を産生します。この毒素は一度作られてしまうと通常の加熱調理では分解できません。一方のセレウス菌は土壌や農作物に広く分布し、特に米や穀類に付着しやすい細菌で、熱に強い芽胞を形成して増殖時に嘔吐型毒素を生成します。
問題は、これらの菌がなぜ危険水準まで増殖してしまったのかというプロセスの瑕疵にありました。調査で浮かび上がったのは、弁当の根幹をなす「ご飯の温度管理」における致命的な過失です。
当時、吉田屋は連休の駅弁フェアに向けて自社工場の炊飯能力を大幅に上回る注文を抱えていました。自社で賄いきれなくなった吉田屋は、岩手県矢巾町の委託先に炊飯業務を外注。しかし、委託先から納品された米飯は、細菌が急激に繁殖する危険温度帯(約20℃〜40℃)のまま冷却が不十分な状態で搬入されていました。さらに吉田屋の工場側でも、到着した米飯の品温を厳格に測定・記録することなく、常温の作業スペースに長時間放置したまま具材の盛り付け作業を行っていた実態が発覚したのです。