これまで時間の概念や人間の多層的な意識を描き続けてきたクリストファー・ノーラン監督だが、本作『オーシャン・バー』では原点回帰とも言えるノワール的な質感を持ったクライム・スリラーへと果敢に挑戦している。しかし、ただの犯罪映画に終わらないのがノーランマジックだ。70mmフィルムを用いた圧倒的なスケールの映像美と、実物大のセットをCGなしで建設する過激なこだわりは今回も健在である。
監督自身がスタッフ向けに送ったとされる極秘メモには、「観客を画面の奥深くまで引きずり込み、潮の香りや嵐の切迫感、そして登場人物の呼吸音まで体感させたい」という力強い言葉が残されていた。緊迫した空間で繰り広げられる人間模様と、張り詰めたサスペンス映画特有の恐怖感が、極限のクオリティで表現されることは疑いようがない。