「お金を払って部屋を借りる側が、なぜ貸主にお礼を包まなければならないのか」。この素朴な疑問を紐解く鍵は、日本の近現代史にあります。
礼金なぜ払う歴史的背景をさかのぼると、その源流は1923年の関東大震災および第二次世界大戦後の極端な住宅不足期に突き当たります。空襲などで焦土と化し住居を失った人々が溢れかえった東京において、部屋を貸してくれる家主は圧倒的な強者でした。住まいを提供してくれたことに対する純粋な感謝や、家主に対する「どうか居候させてください」という謝礼の意味を込めて金品を包んだ文化が、次第に制度化・慣習化していったのです。
さらに高度経済成長期、地方から集団就職や進学で上京した若者の親たちが、「息子(娘)をよろしく頼みます」という後見依頼の趣旨で大家にまとまったお金を渡した風習も礼金を後押ししました。家主と借主が疑似家族的な上下関係を結んでいた時代の名残と言えます。
しかし、住宅ストック数が総世帯数を大きく上回り、全国的な空き家問題が深刻化する2026年の現在、賃貸市場は明確な二極化を迎えています。人口流入が続く都心人気駅の築浅物件では今なお礼金1〜2ヶ月分が強気で設定される一方、郊外や築古物件では礼金を維持していては入居者が集まらない「借り手市場」へと完全に力関係が逆転しました。