ポップカルチャーにおけるナードの描かれ方を辿ると、社会の価値観がどのように変容してきたかが如実に浮き彫りになります。
その原点にして金字塔とされるのが、1984年公開の映画『ナーズの復讐(Revenge of the Nerds)』です。理不尽な暴力と侮蔑で校内を支配するジョックたちに対し、迫害されたナードたちが持ち前の知性とコンピュータスキル、そして独自の連帯感で立ち向かい、カーストを覆していく痛快なストーリーは全米で大ヒットを記録しました。当時はまだ「日陰者の逆襲」というカタルシスでしたが、ナードが主体性を持つキャラクターとして描かれた先駆的瞬間でした。
2000年代に入ると、この構図は決定的な転換を迎えます。米CBSで2007年から放送されたシットコム『ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則(The Big Bang Theory)』は、天才物理学者でありながら世間知らずで偏執的なナードたちの日常を描き、全米視聴率ナンバーワンを獲得する社会現象となりました。ナードは「憐れむべき犠牲者」でも「復讐者」でもなく、その愛すべき奇矯さと純粋さによって大衆から愛される主人公へと昇華したのです。
さらに、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグといったテックジャイアントの創業者が世界の富と権力を握った現実は、「ナードが世界を支配する」というフレーズを現実のものにしました。「学校の廊下でいじめていた相手が、大人になったら君の雇い主になる」という言葉は、現代の力関係の逆転を如実に物語っています。