心臓が突然痙攣を起こす心室細動(VF)などで血流が途絶えると、脳への酸素供給が一瞬でストップします。このとき、脳の最も原始的な部位である脳幹に残存する電気的な反射によって引き起こされるのが死戦期呼吸(あえぎ呼吸)です。医学的には「無呼吸」と同等の状態であり、肺でのガス交換はまったく行われていません。
救急医療の第一線で活動する医師や救急救命士の報告によると、病院外で突然心停止を起こした傷病者のうち、約40〜50%に初期症状として死戦期呼吸が確認されるとされています。決して珍しい現象ではなく、むしろ突然倒れた直後の現場では頻繁に遭遇する現象です。
死戦期呼吸の音と身体の動きには、以下のような際立った特徴が存在します。
- あご(下顎)だけが上下に動く:胸やお腹が大きく規則正しく膨らむのではなく、口を金魚のように大きくパクパクと開閉させ、下顎を突き出すような不自然な動きをします。
- 異常な呼吸音(特徴的な濁音):「ヒュー」「スー」といった澄んだ息遣いではなく、「カッカッ」「ガッ」「ゴロゴロ」「グスン」といった、喉の奥で詰まったようなうめき声や途切れ途切れのいびきのような異音を発します。
- 極めて不規則で間隔が長い:通常の呼吸のように数秒おきに繰り返すのではなく、数秒から数十秒に1回、思い出したように突発的なあえぎを見せます。
- 顔色・反応の消失:呼びかけに対して完全に無反応であり、血液循環が止まっているため、顔面は蒼白または土気色へと急速に変化します。
この状態は心停止から数分間しか持続しません。時間の経過とともにやがて完全に動きが止まり、完全な心肺停止へと進行していきます。「息をしているから大丈夫」と見守ることは、刻一刻と生存のチャンスを捨てていることと同義です。