Oneohtrix Point Neverの背後にいるのは、1982年マサチューセッツ州生まれの音楽家、ダニエル・ロパティン(Daniel Lopatin)です。ロシア系ユダヤ人移民の家庭に育ち、父親がジャズミュージシャン、母親が音楽学者という特異な音楽的血統を持っています。少年時代の彼を取り囲んでいたのは、父が愛用していたローランドの名機「Juno-60」や、冷戦期・旧ソ連の機材、そしてアメリカの消費社会が垂れ流すFMラジオの電波でした。
プロジェクト名「Oneohtrix Point Never」という難解な綴りは、ボストンのソフトロック専門FM局「Magic 106.7(ワン・オー・シックス・ポイント・セブン)」の語感を意図的に崩した言葉遊びに由来します。ロパティン本人が海外メディアのロングインタビューで振り返ったところによると、「車内で絶え間なく流れていた当たり障りのない商業イージーリスニング局の響きが、少年の耳に異世界への入り口のように残像として焼き付いていた」と語られています。
ブルックリンのアートシーンへと身を投じた彼は、カセットテープを用いたノイズ・インプロビゼーションやシンセサイザーのドローン演奏を反復しながら、過去の音響残骸をパッチワークのように再構築する独自の手法を確立していきました。