本作で二階堂ふみ演じる富栄と小栗旬演じる太宰が落ちていった泥沼は、現代の臨床心理学や家族社会学における「病的な共依存(Codependency)」の典型例として鮮明に説明できます。
太宰は、正妻・美知子に家庭と作家としての生活基盤を担保されながら、内面では拭い去れない空虚感と自意識の苛まれから逃れるために愛人を求めました。一方で富栄は、夫の死によってぽっかりと空いた心の空白を、「自分を必要としてくれる天才文豪」に身を捧げることで埋めようとしました。互いの欠落を埋め合う関係は、当初は強烈な恋愛高揚感を生み出しますが、健全な「心理的バウンダリー(自他の境界線)」が存在しないため、やがて相手の感情や生死そのものまで支配しようとする破壊的な衝動へと変貌します。
二階堂ふみの演技が恐ろしいのは、「相手のために尽くすこと」がいつの間にか「相手の生殺与奪の権を握ること」へと反転していくプロセスを、一切の躊躇なく演じきった点です。他者に自己を明け渡しすぎた人間が辿り着く末路を、彼女の狂気は冷酷なまでに描き出しています。
【プロの判断基準】本作の鑑賞が向いている人・慎重になるべき人の条件
映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』は万人向けの娯楽作ではありません。観る者の精神状態や嗜好によって評価が激しく分かれる作品です。以下の判断基準を参考にしてください。
▼本作を強くおすすめできる人:
- 二階堂ふみ、宮沢りえ、小栗旬らトップ俳優の極限状態の芝居・演技対決を堪能したい人
- 蜷川実花監督ならではの絢爛豪華な美術、衣装、色彩美に浸りたい人
- 文学史上の有名スキャンダルを、愛憎劇や心理サスペンスの視点から深く読み解きたい人
- 人間のドロドロとしたエゴや共依存の闇を描いたビターな大人のドラマを好む人
▼鑑賞に慎重になるべき人:
- 太宰治の小説『人間失格』そのものの忠実な映像化を期待している人(本作は太宰自身の伝記ドラマです)
- 過激な性描写(R15+)や、血・喀血、入水心中といった陰鬱な描写に強い忌避感がある人
- 倫理的に不倫や心中を断じて許容できず、登場人物の不道徳な言動に強いストレスを感じてしまう人