近年、考古学界や学校教育の現場で大きな地殻変動が起きています。長年親しまれてきた「竪穴式住居」という呼称が、公式な調査報告書や最新の教科書において「竪穴建物」へと表記変更されている点です。
竪穴建物への名称変更の経緯には、2つの学術的理由が存在します。第1に、日本全国の遺跡から発掘される竪穴遺構を精査したところ、鍛冶場や玉作りの作業工房、儀礼や祭祀の場、さらには共同の貯蔵穴など、「居住用(住居)」以外の目的で使用された痕跡が次々と発見されたためです。居住実態が特定できない遺構を含め、建築形状そのものを客観的に指し示す学術用語として「建物」が採用されました。第2に、考古学用語の近代化に伴い、「〜式」という形式分類の接尾語を省く統一ルールが適用されたことが挙げられます。
また、発掘現場の地層を観察すると、竪穴式住居の寿命と建て替えの実態も見えてきます。地面に直接柱を埋め込む「掘立柱(ほったてばしら)」構造であるため、湿気による木材の腐食は避けられません。実験考古学や民俗学的調査によると、主柱の耐用年数はおよそ15年から25年程度と推定されています。柱が傷むと、人々は屋根の茅を剥がして木材を再利用し、同じ場所の穴を掘り直すか、少しずらした位置に新たな竪穴を掘り直しました。発掘現場で複数の円形や方形の溝が複雑に重なり合う「重複遺構」は、世代を超えて住居をメンテナンスし続けた家族の営みの痕跡そのものです。