1956年、日本映画史に不滅の足跡を刻む名作『狂った果実』が公開された。慎太郎文学を原案とし、石原裕次郎の鮮烈なデビュー作としても知られるこの作品は、戦後の太陽族ブームを巻き起こした伝説の一本だ。だが、この映画の真のドラマは、メインキャストに名を連ねた兄弟のライバル心にあった。
日活の看板若手俳優としてすでに地位を確立しつつあった長門裕之は、弟・津川雅彦の抜擢に複雑な想いを抱いたという。津川のクールで洗練されたルックスと天性の華やかさは、撮影現場の空気を取り込み、瞬く間に観客の心を捉えた。弟の圧倒的な存在感に、兄・長門は強い危機感を覚えずにはいられなかった。
「弟には負けたくない」という兄の執念と、「兄の影を払拭したい」という弟の野心。カメラが回る現場では、役柄を超えた本物の葛藤と熱量が火花を散らした。この相乗効果こそが『狂った果実』に比類なきリアリティをもたらし、結果として二人の役者人生を大きく加速させる原動力となった。