過剰消費を止めるために打った「買わないで」広告でしたが、マーケットが返した反応は、経営陣の思惑を大きく裏切るものでした。広告発表後の2012年度、パタゴニアの売上高は約30%も増加し、過去最高の約5億4000万ドルを記録してしまったのです。
なぜ「買うな」と懇願したにもかかわらず、消費者はパタゴニアの店舗やオンラインストアに押し寄せたのでしょうか。行動経済学やブランド論の観点から分析すると、ここには緻密な計算を超えた「究極の透明性に対する熱狂的信頼」というメカニズムが働いていました。
従来の広告は、自社製品の素晴らしさを誇張し、消費者の欲望を煽るのが常套手段です。しかしパタゴニアは自社製品の環境負荷というネガティブな事実を隠蔽せず、自らのビジネスモデルの矛盾すら吐露しました。この偽りのない誠実さが、「このブランドがそこまで言うなら、本当に一生モノの品質に違いない」「大量生産の使い捨てウェアを買うくらいなら、パタゴニアの確かな1着を選びたい」という消費行動を呼び起こしたのです。
結果として売上が伸びてしまったことについて、パタゴニア側も手放しで喜んだわけではありません。売上が増えれば、それだけ工場の稼働が増え、地球資源が使われるからです。このジレンマに直面した彼らは、次なる一手として「作った服の寿命を極限まで延ばす」という更なる実践へと舵を切ることになります。