カウンターの奥に並ぶ麻袋やビンの中に、この店のもう一つの秘密が眠っている。それが「オールドビーンズ(オールドコーヒー)」だ。一般的な珈琲業界において、生豆は「新豆(ニュークロップ)」こそがフレッシュで最良とされてきた。しかし関口氏は、適切な環境下で長期間寝かせた生豆が、角の取れた芳醇で複雑な風味を醸し出すことを見抜いていた。
10年、20年、時にはそれ以上の年月をかけてじっくりと脱水・熟成されたオールドビーンズ。焙煎機にくべられると、生豆は特有の深い甘味とまろやかな酸味を解き放つ。一口含めば、液体が舌の上でベルベットのように滑らかに広がり、長い余韻を残す。時間の経過すらも味方に変えてしまう熟成の技術は、まさに時間と情熱がもたらす奇跡と言える。