「やきとり」と注文して豚肉が出てくる現象は、道南エリアではごく日常の光景だ。函館の食文化において、鳥肉よりも豚肉が圧倒的な支持を得てきた背景には、厳冬期の気候と産業史が深く関わっている。寒冷な北海道で過酷な労働に耐える人々にとって、ビタミンB1が豊富でスタミナがつく豚肉は必須のエネルギー源だった。養豚が盛んだった道南では鶏肉よりも豚肉のほうが手に入りやすく、安価でボリュームを満たせたという実用的な理由もある。
長年親しまれてきた「やきとり=豚精肉」の文化をそのままご飯の上に載せたのが、名物「やきとり弁当」だ。炭火でじっくりと脂を落としながら香ばしく焼き上げられた豚肉と長ネギ(いわゆる「ねぎま」スタイル)が、海苔を敷き詰めた白米の上に鎮座する。この素朴にして完成された構成が、半世紀近くにわたり道南の胃袋を掴み続けている。