本作の魅力は、主要人物6人の感情が一方通行の矢印となって絡まり合う、緻密なキャラクター設計にあります。一般的な学園ラブストーリーであれば「主人公とヒロインの両想い達成」が主軸となりますが、水野美波が構築したプロットは「誰かを思いやるがゆえの嘘と自己犠牲」が物語のトリガーとなっています。
物語の起点となるのは、中学時代から続く幼なじみ3人の関係性です。相原英二(あいはら えいじ)は、幼なじみの汐崎泉(しおざき いずみ)に密かな想いを寄せていました。しかし、もう一人の親友である別所直彦(べっしょ なおひこ)が泉に告白し交際をスタートさせたことで、英二は自分の想いを心の奥底に封印。「恋は面倒なもの」「自分は恋を知らない」と冷めた態度を取り、自らを恋愛の蚊帳の外へ追いやります。
高校進学後、このトライアングルに新たな3人が加わることで、人間関係の力学は一気に複雑化します。
「本気にならなければ傷つかない」と割り切り、軽い付き合いを繰り返す藤村小春(ふじむら こはる)。そんな小春に一目惚れし、真っ直ぐな好意をぶつける直彦の友人・瀬戸口太一(せとぐち たいち)。そして、周囲の恋愛ごっこに冷ややかな視線を向け、真面目で本音を隠しがちな池澤瑞穂(いけざわ みずほ)。彼らが出会うことで、隠されていた本音が次々と暴かれていきます。
事態が大きく動く契機となったのが、英二と小春による「偽装交際(嘘の恋人関係)」です。直彦への罪悪感から泉への想いを断ち切りたい英二と、太一からの本気の好意から逃げたい小春。お互いの利害が一致したことで始まったこの偽りの関係が、瑞穂の英二に対する意識を呼び覚まし、直彦と泉の信頼関係にも波紋を広げることになります。