今日の成功からは想像もつきませんが、佐藤二朗の若い頃とこれまでの佐藤二朗の経歴は、壮絶な挫折と迷走の連続でした。愛知県で生まれ育ち、信州大学経済学部を卒業した彼は、誰もが羨む大手企業「リクルート」に営業職として就職します。しかし、入社式の当日に「ここは自分の居場所ではない」と強烈な違和感を抱き、なんとわずか1日で退職するという破天荒な決断を下しました。
その後、役者を志して劇団青年座研究所に入所するものの、演技の壁にぶつかり研究所を退所。自ら演劇ユニット「ちからわざ」を立ち上げたものの、観客動員は伸び悩み、30代手前までアルバイトで糊口をしのぐ極貧生活が続きました。風呂なしのアパートで過ごし、将来への不安に押しつぶされそうになりながらも、彼は愚直に舞台に立ち続けました。
転機となったのは、30代を迎えた頃に出演した本広克行監督のドラマや、堤幸彦監督の『ブラック・ジャックII』での端役でした。セリフがほとんどない役柄でありながら、一度見たら忘れられない異様な存在感を放ち、映像関係者のクチコミで一気に名前が広がっていったのです。エリートコースを1日で捨て、底辺の下積みを何年も舐めた経験があるからこそ、彼の演じる市井の人物には、教科書通りの演技では決して出せない「人生の哀愁と滑稽さ」が宿っています。