最大の疑問である「なぜ都を離れたのか」。これには大きく分けて二つの解釈軸がある。一つは史実に基づく解釈、もう一つはアニメ独自の物語設定としての解釈だ。
史実における藤原秀郷は、平将門の乱(939年~940年)を鎮圧した功により、下野国・武蔵国などの受領を歴任したとされる。都に留まる貴族ではなく、地方赴任や戦乱の鎮圧に奔走する武将としての側面が強い。アニメ『おじゃる丸』の父が都を離れた背景にも、この「地方への赴任」「武としての務め」というモチーフが重なっていると考えるのが自然である。
一方、アニメ本編ではより情緒的な理由も示唆されている。家族を都に残し、単身で旅立った父。その姿は「家族を守るための犠牲」なのか、それとも「自由を求めた逃避」なのか。作中では明確に語られないが、母や小町が父の話題を出す際の微妙な表情の陰り、おじゃる丸が父の話になると少しだけ沈黙する演出などから、単純な「英雄譚」ではないニュアンスが漂う。
平安時代という時代背景を考えれば、貴族社会の権力争い、受領としての地方赴任、そして武力を担う家柄としての宿命。これらが複合的に絡み合い、父は「都にいることができない理由」を抱えて旅立ったと推測できる。歴史的な制約と家族の物語が交差する点に、この設定の深さがある。