2026年の今日、批評家たちの間で改めて熱く論じられているのが、結末に向けた伏線回収と本作が内包するメタフィクションとしての完成度である。主人公である佐野の行動や葛藤は、そのままこの小説を執筆する筒井康隆自身の姿と鏡合わせになっている。世界から物が消えるのではなく、著者がその文字を使わないと決めたから世界から消える――この構造に気づいた時、読者は自分たちが読んでいる紙面そのものが世界の創造主であるという本質に直面させられる。
終盤、残された文字が片手で数えるほどになった世界で展開される描写は、もはや圧巻の一言に尽きる。失われた言葉の残像にすがりつきながらも、最後のひと文字が消える瞬間に到達する結末。そこには、虚構と現実の境目が溶け出し、小説というメディア自体が自己破壊を起こすカタルシスが充満している。ネタバレを恐れずに言うならば、本作の結末は無の境地でありながら、言葉の持つ根源的なエネルギーを強烈に証明してみせるのだ。