伝承における「ぬらりひょん」は、勝手に他人の家に上がり込み、茶をすすって自分の家のように振る舞うとされる妖怪の総大将です。しかし、本作のタイトルに冠された沼尻の正体は、オカルト的な怪異や超能力者ではありません。高度な知能と冷酷さを兼ね備えた実在する人間の寄生型サイコパスでした。
沼尻が用いた手口は、北九州監禁殺人事件や尼崎連続変死事件など、現実の重大事件で報告されているマインドコントロールの手法と不気味なほど酷似しています。沼尻は最初から暴力を行使したわけではありません。まず家族それぞれが抱える「恥」「罪悪感」「他人に知られたくない秘密」を巧みに聞き出し、家族内の個別関係を分断しました。
具体的には、父親の面子、母親の劣等感、子どもへの不満などを巧みに刺激し、「自分だけがあなたの本当の味方である」と刷り込みます。孤立させた上で、家族間で互いの行動を密告させ合う相互監視システムを構築。暴力と承認を不規則に与える「間欠強化」によって思考力を奪い、最終的には自ら進んで沼尻の指示に従うよう心理的去勢を完了させました。
沼尻という怪物の本質は、物理的な力ではなく「家庭の欺瞞を突く嗅覚」にありました。平柴家が抱えていた機能不全の火種に、一滴の油を注ぎ続けたことこそが、一家壊滅のトリガーとなったのです。