1961年の創業以来、モード界の頂点に君臨し続けてきた「イヴ・サンローラン」。その歴史が大きく動いたのは2012年のことでした。メンズファッション界のカリスマであり、かつてディオール・オムで世界的なスキニーブームを巻き起こしたエディ・スリマンがクリエイティブ・ディレクターに復帰した際、ブランド名を「SAINT LAURENT(サンローラン)」へと改称し、レディ・トゥ・ウェア(既製服)のブランドロゴを一新したのです。
当時、ファッション業界やファンの間では「伝統あるYSLロゴを捨てるのか」「創業者のファーストネームを削るなど冒涜だ」と、激しい批判や賛否両論が巻き起こりました。海外メディアやSNS上でも改名を惜しむ声が噴出し、ネット上には一時、抗議に近い投稿が溢れかえる事態となりました。
しかし、エディ・スリマンが意図したのは「破壊」ではなく、むしろ「原点回帰」でした。1966年、創業者イヴ・サンローランは高級仕立服(オートクチュール)だけでなく、若者や一般の女性たちに向けた画期的なプレタポルテライン「SAINT LAURENT RIVE GAUCHE(サンローラン・リヴ・ゴーシュ)」をパリのセーヌ左岸に開設しました。当時のブティックで用いられていたフォントこそが、余計な装飾を削ぎ落としたサンセリフ体の「SAINT LAURENT」表記だったのです。
エディ・スリマンは、創業者が掲げた「時代を先取りし、ファッションを民主化する」という革新精神を21世紀に蘇らせるため、この原点の書体を現代的に再構築しました。大改革を経て生まれ変わったサンローランは、ロックやユースカルチャーを巧みに融合させた先鋭的なスタイルを確立し、世界的な大ヒットを記録。結果として、ブランドの売上を飛躍的に押し上げる決定打となったのです。