エヴァと宇多田ヒカルの奇跡|庵野秀明の熱烈オファーと主題歌の真実

エヴァと宇多田ヒカルの奇跡|庵野秀明の熱烈オファーと主題歌の真実

エヴァと宇多田ヒカルの奇跡|庵野秀明の熱烈オファーと主題歌の真実にまつわる役立つ知識を詳しく紐解きます。

宇多田ヒカルの楽曲がエヴァンゲリオンという巨大な物語と共鳴した最大の理由は、「母性の希求から心理的分離・自立へ」という主人公・碇シンジの内面的成長と完全に一致していた点にあります。

2007年の『Beautiful World』において、歌詞は「もしも願い一つだけ叶うなら 君の側で眠らせて」という、他者(あるいは母・綾波レイ)への強い同一化と庇護を求める願いから始まります。「自分の美しさにも気づかない」未成熟な少年を優しく見守る母性的な視座がそこにはありました。

しかし、物語が破壊的な結末を迎えた『Q』の『桜流し』では、「開いたばかりの花が散るのを 見るより木々は何を思うだろう」という、抗えない喪失と死に対する深い祈りへと昇華されます。当時、自身の人間活動(休業)と東日本大震災の傷跡に向き合っていた宇多田自身の死生観が、シンジとカヲルの悲劇的な離別と重なり合いました。

そして完結編である『One Last Kiss』において、物語は決定的な脱皮を果たします。「初めてのルーブルも なんてことはなかったわ」「忘れられない人」と歌われるフレーズは、過去のトラウマや愛着対象に対する執着を手放し、「喪失を受け入れた上で、現実を生きる大人の階段を上る」という精神的自立(インディビデュエーション)の宣言に他なりません。

橋本 菜々子
著者

橋本 菜々子

グルメと旅を愛するフリーライター。全国各地の隠れた魅力を独自の視点から紹介します。