木彫り熊の買取相場において、別格の頂点に君臨しているのが柴崎重行(しばざき しげゆき / 1905–1984)の作品です。
柴崎は八雲町で熊を彫り続けた伝説的な工芸作家であり、後年はノミを使わず、斧や鉈(なた)だけで木の塊を削り出す「ハツリ彫り(面彫り)」の境地に達しました。毛並みを1本1本細かく彫り込むリアルさとは対極にある、抽象彫刻のような力強い稜線と陰影は、彫刻家やデザイナーから「近代彫刻の巨匠ブランクーシにも通じるモダンアート」として絶賛されています。柴崎の作品底面には「志」という一文字が刻まれていることが多く、状態や制作年代によっては、1点で100万円を超える査定がつくことも珍しくありません。
柴崎と並び、八雲の木彫り熊史を語る上で欠かせない作家が茂木多喜治(もぎ たきじ / 号:北雪)です。茂木の熊は、ふくよかで柔らかなフォルムと愛嬌のある表情を持ち、毛彫りの技術において八雲の頂点に立った人物と評されます。底面に「北雪」の刻印があれば、10万〜30万円以上の高額査定が期待できます。さらに、独自の大胆な面構成を展開した鈴木吉次、繊細な造形で知られる加納秋天、旭川で活躍し高い芸術性を示した根本勲などの作品も、コレクターの間で常に高値で争奪戦が繰り広げられています。
また、アイヌ伝統工芸として彫られた木彫り熊も見逃せません。阿寒湖畔や白老、旭川などでアイヌの彫刻家たちが彫り上げた熊は、精巧な毛彫りと力強い野性味、そしてアイヌ文化特有の祈りや精神性が宿っています。名工として知られる引間二郎(木歩)や藤戸竹喜などの手による熊は、民俗資料的価値と超絶技巧が相まって、国内外の美術館や蒐集家から熱烈な評価を受けています。