下町情緒あふれる環境で育った安藤玉恵は、都立駒場高校を経て早稲田大学第二文学部へと進学します。早稲田大学といえば数多くの演劇人を輩出した名門ですが、彼女が選んだ道は決して華やかな商業演劇の王道ではありませんでした。
2000年から2007年にかけて、彼女は劇作家・映画監督の三浦大輔氏が主宰する演劇ユニット「ポツドール」に所属します。当時のポツドールは、現代の若者が抱える鬱屈した性衝動、暴力性、コミュニケーションの不全を極限まで生々しく舞台上に再現する過激な作風で演劇界を震撼させていました。
逃げ場のない小劇場空間で、感情を剥き出しにし、人間の醜悪さや弱さを徹底的に掘り下げる演技を叩き込まれた安藤玉恵。この若い頃の過酷な現場経験が、台詞の巧拙を超えた「剥き出しの人間を立ち上がらせる力」を完成させました。2012年には西川美和監督の映画『夢売るふたり』において、心の隙間を突かれて結婚詐欺に遭う孤独な女性を熱演し、第27回高崎映画祭最優秀助演女優賞を受賞。名実ともに実力派としての地位を確立した瞬間でした。