作中で最も読者の注目を集めたのが、「誇り高き太古の捕食者ピクルが、なぜ背を向けて逃げ出したのか」という疑問です。過去に烈海王の足を食らい、ジャック・ハンマーや範馬刃牙との激戦でも決して退かなかったピクルが逃亡を選んだ背景には、ピクル固有の「野生の生態系ロジック」が存在していました。
ピクルにとって、戦う対象は常に「敵」ではなく「強大な食糧(獲物)」でした。巨大な恐竜を仕留めて喰らうことこそが彼の生存本能であり、戦いの意義だったのです。しかし宮本武蔵という存在は、ピクルのこれまでの経験則を完全に破壊しました。
どれほど攻撃を加えても、小柄な身体から放たれるのは致死性の激痛と皮膚を切り裂く刃のみ。肉の量も少なく、捕食対象としての価値がないにもかかわらず、近寄るだけで致命傷を負わされる――ピクルの脳内イメージにおいて、武蔵は巨大な獲物ではなく「毒針を持ち、喰う肉すらない危険なスズメバチ」として具現化されました。
野生の動物が、毒を持つ小昆虫に対して無駄な命の危険を冒さず距離を取るのと同様、ピクルは自らの生存本能に従って「戦う価値がない害虫から身を守る」ために逃亡を選択したのです。それは武道的な意味での敗北であると同時に、純粋な生物としての防衛本能が下した合理的な判断でした。