半世紀以上にわたって「幻」の名で語り継がれ、文献上しか存在しなかったラジオ体操第3に再び光を当てたのが、龍谷大学社会学部の安西将也教授(公衆衛生学・健康科学)と井上辰樹講師(現教授)を中心とする研究グループでした。
研究チームが調査を開始した2000年代初頭、第3に関する現存資料は壊滅的な状態でした。NHKの保管倉庫にも正規の放送用レコードは残っておらず、関係者の間でも「失われた幻影」と半ば諦められていたのです。しかし、執念の追跡調査によって、日本保険学会や関係機関の古い保管資料の中から、橋本國彦氏が書き残したオリジナルのピアノ楽譜と、江口隆哉氏らが作成した詳細な「動作解説図解(指導用小冊子)」が奇跡的に発掘されました。
楽譜から音源を忠実に再現し、図解に描かれたパラパラ漫画のような連続素描を一つひとつ運動生理学の視点から身体動作へと落とし込む作業は困難を極めました。「音符の長さと腕の軌道が合わない」「図解の矢印が示す重心移動が極めてダイナミックすぎる」といった数々の壁にぶつかりながらも、モダンダンスの専門家や体操指導員の協力を得て、およそ3分間の完全な動作プロトコルを再構築することに成功したのです。
2013年以降、龍谷大学が発表した復刻実演はNHKをはじめとするメディア各局で大々的に報道され、関連書籍や解説DVD、YouTubeにアップロードされた実演動画は累計数百万回再生を記録する爆発的な社会現象となりました。「ただ古い体操を掘り起こした」のではなく、「激動の昭和が残した最高峰の運動プログラムを現代の健康科学として蘇らせた」という学術的・実践的価値が、広く称賛を集めることになったのです。