紅ズワイガニを口にして「水分ばかりで味がぼやけている」と感じた経験を持つ人は少なくありません。ネット上でも「安物だから水っぽいのではないか」といった誤解が散見されます。しかし、水産加工の現場関係者や海洋生物の知見によると、この現象には極めて合理的な生化学的理由が存在します。
一般的な本ズワイガニが生息する水深200〜400メートルの大陸棚に対し、紅ズワイガニは水深800〜2500メートルという極めて水圧の高い深海に生息しています。この強大な水圧に耐えて身体構造を維持するため、体内の水分保持率が約83〜85%と、他の甲殻類に比べて格段に高くなっているのです。つまり、みずみずしさは深海で生き抜くために備わった生物学的な必然と言えます。
注目すべきは、水っぽさと表裏一体にある「強烈な甘み成分」です。水分量が多い反面、身に含まれる遊離アミノ酸(グリシン、アラニン、グルタミン酸など)の含有比率は本ズワイガニを凌駕しています。獲れたての新鮮な個体や、的確な工程で脱水・解凍された身は、口に入れた瞬間に雪解けのようにジューシーな甘みが広がります。「水っぽくてまずい」と感じてしまう最大の原因は、解凍時に細胞膜が破壊され、水分とともにこの極上の甘みエキス(ドリップ)をすべて垂れ流してしまう点にあります。