体内で水分を保持できなくなり、犬が水ばかり飲む・おしっこの量が激増する多飲多尿病気の背景には、特定の臓器不全やホルモン分泌異常が存在します。特に獣医療現場で頻繁に遭遇する代表的な4大疾患を掘り下げます。
1. 慢性腎不全(腎機能低下による濃縮力の喪失)
高齢期に入った老犬が水をよく飲むようになった際、真っ先に疑われるのが慢性腎不全です。犬の腎臓は血液をろ過して老廃物を排出し、必要な水分を再吸収して尿を濃縮する役割を担っています。しかし、腎臓組織の70%以上が線維化などにより破壊されると、尿を濃縮する能力が失われ、薄い尿が大量に排出され続けます。その結果、脱水を防ぐための代償機構として犬が水を大量に飲む腎不全特有の悪循環が形成されます。尿が無色透明に近くなり、食欲不振や削痩(体重減少)を伴う場合は極めて危険な兆候です。
2. 糖尿病(浸透圧利尿による脱水と高血糖)
膵臓から分泌されるインスリンの欠乏や抵抗性によって引き起こされるのが糖尿病です。血液中のグルコース(血糖)濃度が腎臓の再吸収能力を超過すると、尿中に糖が漏れ出します。この糖が浸透圧によって多量の水分を道連れにして排泄される「浸透圧利尿」が起こり、生体は激しい脱水状態に陥ります。犬の水飲みすぎと糖尿病は密接に結びついており、食べる量は増えているのに体重が急激に落ちる、目に見えて元気が低下するといった特徴的な併発症状が確認されます。
3. クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
下垂体や副腎の腫瘍などにより、コルチゾール(副腎皮質ホルモン)が過剰分泌される疾患です。コルチゾールは腎臓における水分の再吸収を阻害し、抗利尿ホルモンの働きを抑制するため、顕著な多飲多尿が現れます。典型的な犬のクッシング症候群の症状としては、大量の水を飲むことに加え、異常な食欲亢進、腹部が樽のように膨らむ「太鼓腹(ポットベリー)」、左右対称性の脱毛、皮膚の菲薄化(薄くなること)などが挙げられます。進行が緩慢なため、単なる「加齢現象」と誤認されやすい落とし穴があります。
4. 子宮蓄膿症(命を脅かす細菌感染と内毒素)
避妊手術を受けていない中高齢のメス犬において、発情出血が終わってから1〜2ヶ月後に発症しやすい致死的な疾患が子宮蓄膿症です。大腸菌などの細菌が子宮内で異常増殖して膿が溜まり、細菌が産生する内毒素(エンドトキシン)が骨髄や腎臓の集合管に障害を与え、尿濃縮能を麻痺させます。これにより、犬が子宮蓄膿症で水を飲む頻度が跳ね上がります。陰部からの膿の排出、発熱、腹部膨満、嘔吐、急激な虚脱が伴う場合、数日以内に敗血症や多臓器不全で命を落とす恐れがあるため、一刻を争う緊急手術が必要です。