澤瀉屋の真骨頂は、重厚な古典歌舞伎の神髄を守りつつ、時代の先を行く新しい演劇を創造する点にある。夫の四代目段四郎が古典の舞台でいぶし銀の演技を見せる一方、息子の四代目市川猿之助はスーパー歌舞伎II『ワンピース』をはじめとする画期的な舞台を次々と打ち立て、観客を熱狂させた。
古典と革新という二つの大きな潮流が交錯する家庭内で、延子氏の心労は計り知れなかった。伝統的な様式美を重んじる古典の現場と、過酷なフライングやアクションが伴う現代的なスペクタクル劇。双方のプレッシャーを間近で受け止め、家族が心身を休めることのできる唯一の家庭環境を守り抜いたことこそ、彼女の最大の功績だった。