上高地エリアに点在する宿泊施設の多くは、11月中旬の閉山祭とともに半年近い冬眠期間に入ります。その中にあって、安房峠の中腹に佇む中の湯温泉旅館は、白銀の世界に閉ざされる真冬であっても暖簾を掲げ続ける極めて貴重な拠点です。
1915年(大正4年)の焼岳大噴火によって大正池が形成された歴史を間近で見つめてきた同館は、かつて安房峠の旧道沿いに位置していましたが、1995年のトンネル工事事故を経て現在の高台へ移転再建されました。館内に入ると、木の温もりを前面に押し出した山岳ロッジの風格と、日本秘湯を守る会の提灯が醸し出す静謐な情緒が心地よく調和しています。
観光地化された大型ホテルとは一線を画し、「手つかずの大自然に最も近い場所で本物の温泉に浸かる」という贅沢を味わえる点こそ、四季を問わずリピーターが絶えない最大の要因です。