花祭りの最大の特徴は、花御堂の中央に安置された誕生仏(右手を天、左手を地に向けて立つ赤ん坊姿のお釈迦様)の頭上から、柄杓で「甘茶」をかける独特の作法です。なぜ水や抹茶ではなく、甘茶をかけるのでしょうか。
仏教の経典『過去現在因果経』などによると、お釈迦様が地上に誕生した瞬間、大地が六種に震動し、天から九頭の竜(あるいは二頭の竜王)が現れて、清らかで温かい水と冷たい水の「甘露の雨」を降らせて産湯とさせたと記されています。花祭りで頭から甘茶を注ぐ行為は、この「天からの甘露の祝福」を再現した神聖な儀式です。
かつては香木を煎じた「香湯(こうとう)」が使われていましたが、江戸時代中期以降、日本特有の植物であるヤマアジサイの変種「アマチャ」の葉を蒸して発酵・乾燥させた甘茶(フィロズルチンを含む天然の強い甘味を持つ生薬)が用いられるようになりました。甘茶には無病息災や延命長寿の効能があると信じられ、参拝者に振る舞われるとともに、子どもの墨汁に混ぜて習字をすると上達するといった民間信仰も育まれました。
また、花祭りのパレードや境内の装飾で目にする「白い象」の山車にも重要な意味があります。摩耶夫人がお釈迦様を身ごもる直前、「六つの牙を持つ気品ある白象が空から降りてきて右脇から胎内に入る夢」を見たという受胎告知の伝説に基づいています。古代インドにおいて白象は神聖と高潔、そして仏徳の具現化を象徴する吉兆であり、お釈迦様の誕生を語る上で欠かせないシンボルです。