吹きこぼれそうになった瞬間に冷水を注ぐ「差し水(びっくり水)」。昭和から平成の家庭料理本では当たり前のように推奨されてきましたが、現代の麺類調理科学において、乾麺そばへの差し水は「やってはいけない最大のNG行為」と断定されています。
差し水をしてはいけない決定的な理由は、「鍋全体の温度低下によるデンプンの糊化(アルファ化)阻害」にあります。乾麺そばを美味しく仕上げるためには、98度以上の沸騰状態を維持し、麺の芯まで一気に熱を伝えてデンプンを糊化させなければなりません。しかし途中で冷水を入れると、お湯の温度が一気に80度前後に急降下します。
すると、熱伝導が途切れた麺の内部は芯が残ったまま硬化し、逆に表面ばかりが水分を余計に吸ってブヨブヨにふやけてしまいます。結果として「外側はドロドロなのに中は粉っぽい」という最悪の食感を生み出してしまうのです。吹きこぼれそうになった際の正しい対処法は、「火力をわずかに弱めて微沸騰を保つ」こと、もしくは「最初から口径の広い深底鍋を使って対流を促す」こと以外にありません。