実際に介護の限界に直面した現場では、どのような選択がなされているのでしょうか。大手掲示板や介護コミュニティ、取材に応じた当事者の手記からは、生々しい現実が浮かび上がってきます。
都内在住の40代男性は、認知症を発症した父親との関係について当時の手記で次のように告白しています。『「親なんだから最期まで看るのが筋だ」と自分に言い聞かせて仕事をセーブしたが、夜間徘徊と暴言で精神が完全に崩壊した。ある夜、父親の首に手をかけそうになり、震えながら警察と行政に電話した。あのとき自力介護を諦めていなければ、私は間違いなく犯罪者になっていた』。この証言は決して特殊な事例ではなく、自力介護の破綻が引き起こす極めて普遍的なリスクです。
親の介護から完全に離脱、あるいは間接的な支援のみに留めるための最初の防波堤となるのが、各自治体に設置されている地域包括支援センターの相談窓口です。相談する際のポイントは、「介護を手伝ってほしい」ではなく、「自分は持病や仕事、家庭の事情により直接介護は一切できません。すべて公的サービスや施設で対応してください」と初期段階で明言することです。
曖昧に「できる範囲でやります」と答えてしまうと、ケアマネジャーや行政担当者から家族介護を前提としたケアプランを組まれてしまいます。初手で「関われない」という前提を共有することで、担当者は施設入所やショートステイ、訪問介護をフル活用した外部完結型の支援計画を組み立てざるを得なくなります。介護離職を防ぐための対処法の根本は、家族が介護の戦力にならない覚悟を決めることです。