ファンの間で頻繁に交わされる「アイスダンスとペアはどっちが難しいのか」という議論。この問いに対するトップスケーターや指導者たちの共通見解は、「難しさのベクトルの種類が全く異なるため、単純比較は不可能」という結論に帰着します。
ペアの過酷さは、極限の「フィジカルと恐怖心の克服」にあります。時速数十キロで宙に舞う女性側の恐怖心、そしてパートナーの命を文字通りその腕一つで預かる男性側の精神的・肉体的プレッシャーは想像を絶します。サイドバイサイドジャンプの着氷タイミングを100分の1秒単位で合わせる筋力と瞬発力も不可欠です。
一方、アイスダンスの過酷さは、極限の「繊細さとエッジコントロールの精密性」です。一見すると危険な大技がないように見えますが、ほんの数ミリのブレードの傾きや体重移動のズレがレベルダウン(基礎点の減点)に直結します。2人の距離が数センチ離れただけで減点される「同調性の極致」を求められるため、幼少期からの基礎スケーティング技術の蓄積が決定的な差を生み出します。
アスリートの適性で見れば、シングル時代に高いジャンプ力と空中感覚を誇った選手はペアへ、並外れたスケーティングスキルと音楽性、深いエッジワークを持っていた選手はアイスダンスへ転向するケースが合理的とされています。双方が異なる過酷さを極めた、唯一無二の氷上芸術と言えます。