SNSや大手料理レシピサイトの投稿、知恵袋のQ&Aなどを詳細に調査すると、なますに対する家庭でのリアルな不満と葛藤が浮かび上がってきます。
「レシピ通りに作ったはずなのに、翌日お弁当に入れようとしたらタッパーの底が汁浸しになっていた」「子どもが『すっぱくて痛い』と泣いて食べてくれず、結局大量に残って処分した」といった切実な声が毎年数多く投稿されています。一方で、料理上手のユーザーからは「塩もみした大根をサラダスピナー(野菜水切り器)にかけてからペーパーで絞ると世界が変わる」「白砂糖の代わりにみりんを煮切って使うと料亭の味になる」といった実践的な知恵も共有されています。
都内の老舗日本料理店で修業を積んだ和食料理長は、取材に対して次のように現場の感覚を語っています。
「家庭で作るなますの失敗の9割は、『塩もみの甘さ』と『味見のタイミング』にあります。塩もみをした直後はしんなりして見えても、細胞内にはまだ水分がたっぷり残っています。手のひらで絞った後、ボウルに受けて少し放置してみてください。さらに水が染み出してくるはずです。その水気をペーパーで完全に吸い取って初めて、合わせ酢を吸い込む準備が整います。調味料を吸わせるスペースを素材の中に作ってあげることが、プロの仕上がりの秘訣です」
現場のプロが強調するように、野菜から余計な水分を排出し、そこに合わせ酢を迎え入れる「置換」のプロセスこそが、時間が経ってもぼやけない輪郭の際立ったなますを生み出すのです。