栄光の絶頂にあった研究生活は、突如として暗転する。2014年、世界最高峰の学術誌Nature(ネイチャー)に掲載された2本の論文。筆頭著者の小保方晴子氏とともに、指導役・共著者として名を連ねていた笹井氏は、瞬く間に未曾有のSTAP細胞論文問題の渦中へと引きずり込まれた。
酸刺激によって万能性を獲得するというセンセーショナルな発表は、科学界のみならず社会全体を巻き込む狂乱を生んだ。しかし、画像の不自然さや再現性の欠如が次々と指摘され、事態は急速に泥沼化する。理化学研究所(RIKEN)の組織防衛、国際的な科学スキャンダルへの発展、そして過度なプレッシャー。卓越した文章力と構成力で論文を組み上げた笹井氏自身が、データの不整合を見抜けなかったのか、あるいは生命の持つ可塑性の幻影に魅せられてしまったのか。その真相は、科学史の深い闇の中に沈んでいる。