登記簿上の管理が行き届かない物件を狙った空き家不法占有トラブルの現状は、年々陰湿さを増している。都市部の老朽化した空き家や、相続放棄によって管理者が不在となった地方の戸建てに、身元不明の人物や悪質なグループがいつの間にか住み着く事案が後を絶たない。近隣住民からの通報で親族が現場へ駆けつけた時には、勝手に玄関の鍵を付け替えられ、水道や電気を不正に引き込んで生活拠点にされているケースすら見受けられる。
現場を取材する中で、所有者や管理業者が直面する最大の壁となるのが不法占拠立ち退き料の決定的な理由だ。法律論だけで言えば、権原のない不法占拠者に対して1円たりとも金銭を支払う義務はない。にもかかわらず、実務の現場では数十万〜数百万円の「解決金」や「引越し費用」を所有者側が泣く泣く手渡し、退去合意を取り付ける事例が日常的に行われている。
なぜそのような理不尽が罷り通るのか。それは、正規の明渡し訴訟を提起して強制執行を断行するまでに要する「莫大な時間とコスト」が原因である。弁護士費用、裁判費用、そして執行官立ち会いのもと荷物をすべて搬出・保管する強制執行費用を合算すると、一般住宅でも総額150万〜300万円程度の持ち出しになることが珍しくない。さらに判決確定から強制執行の断行までには半年から1年以上の歳月を要する。
現場取材において、不動産管理会社の担当者は「不法占拠者を相手に正論で勝訴判決を取っても、相手が無資力であれば執行費用は1円も回収できない。次の入居者を迎えて収益化を急ぐオーナーほど、背に腹は代えられず『手切れ金』としての立ち退き料を支払ってしまう」と重い口を開く。法的手続きの重厚さが、皮肉にも不法占拠者側の交渉材料として悪用されている構図が浮かび上がる。