ワチラロンコン国王の名が世界的なバイラルコンテンツとして拡散された最大の要因は、欧州のパパラッチやタブロイド紙が報じた数々のゴシップにあります。ミュンヘンの空港やショッピングモールにおいて、丈の極端に短いタンクトップ(クロップトップ)を着用し、腕や背中にタトゥーシールを貼った姿で買い物をする写真や動画が流出し、世界中に大きな衝撃を与えました。また、寵愛した愛犬のプードル「フーフー」に空軍大将の階級を授与したとされる逸話など、奇抜な振る舞いがセンセーショナルに書き立てられた経緯があります。
これらの報道について関係筋や現地の政治アナリストの証言を突き合わせると、映像や写真そのものは加工されたフェイクではなく実際の姿を捉えた事実であることが確認されています。しかし、西欧のゴシップ紙が煽る「狂気の君主像」と、タイ宮廷における実力者としての姿には大きな落差が存在します。
国王が長年にわたりドイツ・バイエルン州(ガルミッシュ=パルテンキルヒェンやシュタルンベルク湖畔の高級別荘地)に長期滞在していた背景には、極めて実利的な理由がありました。自らボーイング機やヘリコプターを操縦できる環境が整っており、厳格な儀礼や王室プロトコル、鬱屈した国内政治のしがらみから物理的に距離を置くための「プライベートな聖域」を確保したかったという側面が強いと分析されています。
しかし、2020年の世界的なパンデミック下において、自国民が経済的打撃や行動制限に苦しむ中で高級リゾートホテルを貸し切り長期滞在を続けたことは、ドイツ連邦政府をも巻き込む外交問題へと発展しました。当時の独外相が「ドイツ国内からタイの国政を指揮することは容認できない」と議会で答弁するなど波紋を広げた結果、現在ではタイ国内での滞在比率を高め、儀礼公務に精力的に出席する姿勢を示すよう軌道修正が図られています。