シニア期に突入した「高齢犬の呼吸が荒い原因」は、単一の疾患だけでなく、加齢に伴う複合的な身体機能の衰退が複雑に絡み合っています。心肺機能の低下はもとより、呼吸筋の脆弱化や肋軟骨の石灰化による胸郭拡張性の低下、さらには慢性的な気管支炎や肺線維症といった呼吸器疾患がベースに存在することが珍しくありません。
見落としてはならないのが、「身体の痛み」と「中枢神経の変性」です。高齢犬の多くは変形性関節症や脊椎症を抱えており、起き上がる動作や寝返りを打つこと自体に耐え難い鈍痛を感じています。犬は本能的に弱みを隠す捕食対象回避の習性を残しているため、激痛を感じていても人間のように大声で叫ぶことは稀で、その代わりに「ハァハァ」と浅く荒い息を繰り返すことで痛みを逃そうとします。また、認知機能不全症候群(いわゆる犬の認知症)を患っている場合、体内時計の狂いや不安感、夜間の徘徊に伴って交感神経が暴走し、激しい息切れを伴う過呼吸発作のような状態に陥るケースが多発しています。
臨床の現場で頻繁に目にする悲劇は、飼い主側が「もう歳だから息が荒いのも当たり前だろう」「単なる老化現象だ」と主観的に決めつけ、心不全や慢性的な痛みのシグナルを長期間にわたり放置してしまう事態です。老犬だからこそ、呼吸の乱れは身体が限界を迎えている悲鳴であると捉え直す視点が求められます。