公式に生存が示されているにもかかわらず、なぜ現在に至るまで「翔の死亡説」がネット掲示板やSNSで囁かれ続けているのでしょうか。要因を分析すると、原作小説のショッキングな結末との混同と、ジブリ映画特有の死生観を帯びた演出という2つの背景が浮かび上がります。
映画『借りぐらしのアリエッティ』の原案となったのは、イギリスの作家メアリー・ノートンが1952年に発表した名作児童文学『床下の小人たち(The Borrowers)』です。この原作において、翔にあたるキャラクターは病弱な英国人の「少年(ボ―イ)」として登場します。しかし、原作における物語の枠組みは、映画よりもはるかにシビアです。
原作小説は、メイおばさんという老女が少女ケイトに対して、かつて自分の弟(少年)から聞かされた「小人の思い出」を語る形式を取っています。そして衝撃的なことに、その弟である少年は、のちに成長して軍人となり、インドへ赴任したのちに若くして戦死しているのです。小人たちの存在を証明できる唯一の人間がすでにこの世を去っているという設定が、原作全体のノスタルジーと哀愁を決定づけています。
この原作の設定を知る一部の読者やファンが、「アリエッティと出会った少年は死んでしまう」という結末の断片を映画版の翔に重ね合わせた結果、「翔も手術で死んだのではないか」という都市伝説的な死亡説が拡散し、定着していきました。