教育現場からは姿を消した乾布摩擦ですが、健康法としての生理学的作用がすべて否定されたわけではありません。刺激の与え方さえ正しければ、人体に明確なプラスの反応を引き起こすことが生体生理学の実験によって確認されています。
皮膚には無数の末梢神経と毛細血管網が張り巡らされています。皮膚表面に適度な摩擦刺激が加わると、知覚神経を通じて反射的に局所の血管が拡張する「軸索反射(アクソン反射)」が生じます。これにより皮膚温が上昇し、滞っていた末梢血流がスムーズに流れ始めます。
さらに注目すべきは自律神経系へのアプローチです。皮膚へのリズミカルで心地よい刺激は、興奮状態を司る交感神経の緊張を解き、リラックスを促す副交感神経を優位に導くトリガーとなります。自律神経のリズムが整うことで、睡眠の質の向上やストレス性疲労の軽減が期待できるメカニズムです。
ただし、かつて喧伝された「乾布摩擦で直接的に白血球が増加し、風邪ウイルスを完全に撃退する」といった短絡的な免疫力向上説には、直接的な科学的根拠が乏しい点に注意が必要です。あくまで「血流促進と自律神経の安定がもたらす全身状態の底上げ」が、結果として風邪を引きにくい体調維持に寄与するというのが、2026年現在の医学的見解です。