一般の患者を混乱させる最大の要因は、「心身症」と「精神疾患」という概念の混同にあります。
医学分類上、「心身症」とは独立した病名ではなく、身体疾患の中でその発症や経過に心理社会的ストレスが密接に関与している病態の総称を指します。胃潰瘍、気管支喘息、偏頭痛、アトピー性皮膚炎の悪化などがその代表例です。したがって、心療内科とは本来「内科」から派生した専門分野であり、身体の器質的な検査や治療をベースに持ちながら、心理療法を併用する診療科です。
一方、うつ病、双極性障害、統合失調症、神経症性障害などは「精神疾患」に分類され、脳の神経伝達物質の異常や認知的要因が深く関与します。こちらは精神医学を修めた精神科医が治療の主役を担います。
それにもかかわらず、街中を歩くと「〇〇心療内科・メンタルクリニック」という複合的な看板ばかりが目につきます。この現象について、都内でメンタルヘルス診療を行う院長は次のように明かします。
「精神科という名称には、長年培われてしまった社会的なスティグマ(偏見や心理的抵抗感)を抱く患者さんが今なお少なくありません。そのため、実際には精神科専門医であっても、受診のハードルを下げる目的で『心療内科』を併記して開業するケースが一般的になっています。厚生労働省の標榜科ルール上、医師免許があれば心療内科を標榜することは法的に禁じられていないためです」
取材データによると、日本心身医学会が認定する心身医学専門医は全国で約700名前後と極めて少なく、地域によっては純粋な心療内科医を探し出すこと自体が困難な状況にあります。街のクリニックの多くは精神科医が常駐し、実質的に精神科医療を提供しているのが偽らざる現場の実態です。