現代の若い世代にとって、水谷豊といえば「紅茶を高い位置から注ぐ、沈着冷静なエリート警部・杉下右京」のイメージが極めて強固です。そのため、ネット上では「昔から真面目で理知的なインテリ役ばかり演じていたのでは?」という誤解が散見されます。
しかし、これは明確な誤りです。本稿で検証してきた通り、若き日の水谷豊はむしろ「反骨精神あふれるアウトロー」「社会の枠組みからはみ出したチンピラ」「泥臭く情熱的な青年」の象徴でした。『傷だらけの天使』で見せた下品スレスレの泥臭い仕草や、叫び、激しい感情の吐露こそが、彼の真骨頂だったのです。
さらに、彼が順風満帆なエリートコースを歩んできたわけではない点も見落とされがちです。10代後半の大学受験失敗による挫折、アパートでの極貧生活、役者を一度諦めかけた苦悩の数年間が存在したからこそ、彼の演じるアウトローには単なるポーズではない「本物の孤独と哀愁」が宿っていました。この泥臭い下地があるからこそ、後年の杉下右京という怜悧なキャラクターにも深い人間味と奥行きが付与されているのです。