下山事件の真相を探る上で避けて通れないのが、当時の国際情勢である「冷戦の激化」とGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)関与説です。1949年当時、日本はアメリカの占領下にあり、中国大陸の共産化や朝鮮半島の緊張を背景に、アメリカは日本を「反共の防波堤」へと転換する「逆コース」政策を強力に推進していました。
ノンフィクション作家の松本清張(『日本の黒い霧』)や近年の機密解除文書の検証により、事件の背後に浮上した具体的な組織や下山事件における黒幕の正体に関する有力仮説は以下の通りです。
- GHQ参謀第2部(G2)とキャノン機関:チャールズ・ウィロビー少将率いるG2直属の秘密情報部隊「キャノン機関(ジャック・キャノン中佐)」が、左翼勢力・共産党系労組を弾圧・壊滅させるための謀略工作として事件を主導したとする説。
- 亜細亜産業と旧軍特務機関脈:元陸軍軍人や右翼フィクサーが集結していた「亜細亜産業(代表・矢板玄)」の存在。GHQや民政局(GS)と複雑な利害関係を持ち、ライダイハンの物資調達や特殊工作に関与していた組織が実行部隊として使われた疑惑。
- ヌカ油と機関車オイルの謎:遺体や下着に付着していた鉱物油・植物油(ヌカ油)の成分比率が、米軍関係施設や特定の軍需物資工場で使用されていた特殊油脂と一致した事実。
当時の報道各社の記者手記や警察関係者の回顧録には、「捜査線上に特定の米軍関係組織が浮上するたびに、GHQ高官からの露骨な圧力や捜査中止命令が下った」という生々しい証言が多数記録されています。