霊柩車が絡む交通事故では、一般的な物損・人身事故の損害賠償に加えて、特殊な法理が適用されます。実務上、最大の焦点となるのが葬儀社過失割合と、精神的損害に対する棺桶損壊慰謝料の請求可否です。
日本の民法上、遺体は「有体物」すなわち法的には「物」として分類されますが、通説・判例(最高裁判決等)では「祭祀主宰者に帰属する特殊な所有権の対象」と位置づけられています。単なる機械や家具の損壊とは異なり、遺族の「故人に対する敬愛追慕の情」という法的に保護された人格的利益を侵害したとみなされるため、物損事故でありながら高額な精神的慰謝料が認められるケースが少なくありません。
霊柩車は緑ナンバーを掲げる事業用貨物自動車(一般貨物自動車運送事業・霊柩限定)であるため、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)に加えて、手厚い対人・対物賠償、人身傷害保険、受託者賠償責任保険などの霊柩車任意保険適用が業界団体によって義務付けられています。
過去の下級審判例を見ても、搬送中の過失によって棺が損壊し火葬が大幅に遅延した事案において、裁判所は「遺族が受けた精神的苦痛は通常の物損の枠にとどまらない」として数十万から百数十万円規模の慰謝料請求を認める判断を下しています。事故を起こした葬儀社側には、民事上の賠償責任のみならず、誠心誠意の謝罪と代替儀式の無償手配といった道義的責任が重くのしかかります。