繰り下げ受給の基本的な仕組みは極めて明快だ。年金の受給開始を1ヶ月遅らせるごとに、本来の受給額に対して「0.7%」の加算が行われる。仮に受給開始を1年間(12ヶ月)遅らせた場合、増額率は「8.4%」となる。
現在適用されている制度では、繰り下げの限度年齢が75歳(120ヶ月)まで拡大されている。65歳で受け取らずに75歳まで上限いっぱい繰り下げた場合、増額率は実に「84.0%」に達する。一度増額された受給率は生涯変わらないため、長生きするほど総受給額の差は開いていく。
具体的に毎月の受給額がどの程度変わるのか、月額15万円(65歳受給開始時点)を受給できる標準的なケースで試算してみよう。
66歳(12ヶ月繰り下げ・+8.4%)の場合、月額受給額は16万2,600円となり、年間で約15万円の増額となる。さらに70歳まで5年間(60ヶ月繰り下げ・+42.0%)遅らせると、毎月の受給額は21万3,000円へと跳ね上がる。そして上限の75歳(120ヶ月繰り下げ・+84.0%)まで繰り下げた場合、毎月の受給額は27万6,000円に達し、65歳時点と比べて毎月12万6,000円もの差が生じる計算だ。
これほど大きな増額効果がある一方で、受給開始を遅らせている期間中は年金収入がゼロになる。手元の預貯金や再雇用による就労収入で生活費を賄えるかどうかが、繰り下げを実行する上での物理的な分岐点となる。