フルート奏者が最も恐怖を感じるのが、第3オクターブから最高音域にかけてのトリルパッセージです。この音域は管内の空気抵抗が非常に高く、わずかなキイの乱れで倍音列が隣の倍音へと飛び移り、オクターブ下へ落ちるか耳障りな金属性の異音を発します。
特に難所とされる「第3オクターブのG-Aトリル」や「Ab-Bbトリル」では、通常の指使いで往復することは超絶技巧を持つ奏者であってもハイリスクです。ここで効力を発揮するのが、音響的な倍音補正を利用した裏運指です。例えば高音G-Aトリルでは、左手親指のBキーを最初から開放した状態で構え、右手側のトリルキーのみで音程差を作り出すことで、左手全体の運動を完全に静止させることが可能になります。
さらに最高音域のC4-D4付近では、運指の選択だけでなく「呼気の流速」と「唇の距離」の連動が不可欠です。替え指を使うとトーンホールの開口面積が通常運指よりも狭くなる傾向があり、息の圧力を普段より約10〜15%高めに保ちつつ、息の当てるポイントをマイクロ単位で上方へ向けることで、音が細くかすれる弱点を完璧にカバーできます。