父子の歴史を語る上で欠かせない象徴的な光景がある。2018年、ナゴヤドーム(現・バンテリンドーム ナゴヤ)で行われた中日対広島戦の始球式だ。それは父が愛され、戦い抜いたふたつの球団が対峙する特別な舞台だった。
父の現役時代の背番号「30」を背負ってマウンドに立った山田裕貴は、渾身のノーバウンド投球を披露した。投球直後、帽子を取ってグラウンドに深く一礼した彼の目からは大粒の涙が溢れ出していた。
「父の背中を追いかけて野球を始め、挫折して別の道へ進んだ僕が、役者としてこのマウンドに立っている」。かつて白球から逃げ出した過去を乗り越え、自分の足で父と同じグラウンドに立った瞬間だった。後日、父から届いた「ナイスボールだった」という短いメッセージは、何物にも代えがたい承認の証となった。