昭和の後期、全日本女子プロレスが到達した熱狂は異常だった。その震源地にいたのが、凶器攻撃と圧倒的な威圧感で女子プロレス界を恐怖に陥れた極悪同盟の総帥、ダンプ松本である。連日のようにゴールデンタイムで中継され、リング上には本物の殺気が漂っていた。
1988年2月25日、川崎市体育館。超満員の観客が見守るなかで行われた引退試合は、盟友・大森ゆかりと組み、宿敵であるクラッシュ・ギャルズ(長与千種、ライオネス飛鳥)と対峙するタッグマッチだった。リングサイドのファンは怒号と悲鳴を上げ、いつものように凶器が飛び交う流血戦が繰り広げられた。しかし、試合が進むにつれ、会場の空気は異様なものへと変化していった。
憎くてたまらなかった怪物の引退。観客が目の当たりにしたのは、憎悪を超えた壮絶な生き様そのものだった。試合終了のゴングが鳴り響いた瞬間、リングに広がっていたのは罵声ではなく、敵味方の枠を超えて抱き合い、号泣する選手たちの姿だった。