世間一般では「天上天下唯我独尊」という前半の8文字のみが切り取られがちですが、経典には極めて重要な天上天下唯我独尊の続きが存在します。この後半の一節を知らなければ、言葉の真意にたどり着くことはできません。
経典の代表的な記述では、以下のような16文字の連句として完結しています。
「天上天下 唯我独尊 三界皆苦 吾当安此」
(てんじょうてんげ ゆいがどくそん さんがいかいく ごとうあんし)
後半の三界皆苦 吾当安此(文献によっては「吾当安之」とも表記)こそが、仏教の根底に流れる慈悲の誓願です。
- 三界皆苦(さんがいかいく):欲界・色界・無色界という、生老病死の苦痛や人間関係の葛藤に満ちたこの現実世界は、すべて苦しみに覆われている。
- 吾当安此(ごとうあんし):迷い苦しむ人々を救い、この世界の苦難を私が必ずや安らかに導いてみせよう。
『修行本起経』や『仏本行集経』ではさらに「要度衆生生老病死(生老病死に苦しむ衆生を救済せん)」と言葉が続けられています。つまり、釈尊が宣言したのは単なる自己誇示ではなく、「人間として生まれたからには、誰もが比較不能な尊い命の持ち主である。しかし現実社会は苦難に満ちている。だからこそ、私はその苦しみの構造を解き明かし、すべての命を真の安心へと導く使命を果たすのだ」という、仏教の教えと命の尊厳を根底から支える重大なマニフェストだったのです。