「では、あの素晴らしいカカオへの情熱と技術はどこへ消えてしまったのか?」と喪失感を抱く読者も多いはずです。しかし、その精神は途絶えたわけではありません。なかたに亭のDNAは、中谷哲哉シェフの実子である中谷奨太氏が手がけるヤード コーヒー アンド クラフトチョコレート(YARD Coffee & Craft Chocolate)へと鮮やかに受け継がれています。
大阪市天王寺区茶臼山町、天王寺公園「てんしば」の北側に位置するYARDは、奨太氏が国内外で培ったバリスタおよびクラフトマンとしての知見を結集させたBean to Barの専門店です。カカオ豆の選定から焙煎、成形に至るまで全工程を自社で一貫して行うこの空間には、なかたに亭が長年培ってきた「カカオへの誠実な眼差し」が息づいています。
重要なのは、YARDは単なる「なかたに亭の縮小コピー」ではないという点です。父・哲哉氏が生み出したクラシカルで洗練されたフランス菓子のアプローチをリスペクトしつつ、奨太氏はスペシャルティコーヒーとの緻密なペアリングや、現代的なBean to Barタブレットという新たなフォーマットへと進化させました。店舗では上質なカカオを用いたスイーツやドリンクが提供されており、なかたに亭の「本物のカカオ感」を知る往年のファンも足繁く通っています。
一方、なかたに亭 現在における父・中谷哲哉氏の動向については、公の舞台から潔く身を引いた後、製菓専門学校での特別講義や若手パティシエへの技術指導、カカオ産地との文化交流など、次世代の育成と業界の発展に静かに寄与しています。自らが築いた成功体験にすがりつくことなく、後進へ道を譲るその姿勢は、職人界におけるひとつの理想的な生き方として賞賛されています。