この衝撃的な概念を世界に提示したのが、米国の異彩を放つ学者であり政治活動家でもあったデヴィッド・グレーバーだ。当時、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の教授を務めていた彼が2013年に発表した短編エッセイは、瞬く間に世界中に拡散し、無数の労働者の悲鳴混じりの共感を呼んだ。
グレーバーは元々、文化人類学の領域で卓越した業績を残した人物だ。名著『負債論 貨幣と暴力の5000年』において、人類の歴史における貨幣と債務の暴力的な本質を解き明かした視座は、後に著書『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』へと結実する。日本では社会学者の酒井隆史による精緻な翻訳を経て岩波書店から刊行され、知的潮流にとどまらない空前のベストセラーとなった。
彼が唱えた論理の革新性は、従来の経済思想が無視し続けてきた「労働の精神的打撃」に光を当てた点にある。生産性の向上によって労働時間が減るという過去の予測に反し、なぜ現代社会は無意味な管理職や書類作成作業で溢れかえっているのか。グレーバーは、それが経済的合理性ではなく、ある種の政治的・道徳的な統制メカニズムとして機能している事実を白日のもとに晒したのだ。